さてそれでは最初はゼニット偵察衛星とモルニヤ通信衛星、それにルナ24号の旧ソ連3機から行ってみましょう。なおこれら旧ソ連の機体に関しては水城さん「コスモアイル羽咋見学」もご覧頂くと専門家の目で見た解説があります。

○ ゼニット(Zenit)偵察衛星

自称「ヴォストーク宇宙船」こと「ゼニット偵察衛星」は展示室入ってすぐの場所にありました。一応実際に宇宙に行って還ってきた大気圏突入カプセルの実機のようです。直径は2.3mあるはずです。衛星にしては巨大ですよね。しかも無人衛星なのに何故カプセルが戻ってくる必要があるの?と言う疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。ゼニット偵察衛星が活躍したのは1961年から1994年にかけてですがデジタル化されていない状況ではカメラで撮影したフィルムを回収する必要があった為です。当時の米国の偵察衛星(コロナ偵察衛星)はフィルムのみを回収していましたが、旧ソ連ではカメラも含めてフィルムを回収していたと言うことです。


カプセルの全景です。画面左下の方がグレーで右上は元の色の赤褐色ですので左下を下にして大気圏に突入したのでしょう。


カプセルの横には「譲渡および内容証明書」が展示してあります。ロシア語の方をちゃんと読んでいないのですが、日本語解説によるとこのゼニットカプセルはユニット番号m/u14272で分類が「ボストーク型ゼニットカプセル」とあります。1979年2月20日にバイコヌールから打上げられて7日間周回した後回収されたそうです。ここで注目なのはこの解説では比較的正しくこのカプセルをボストーク型ゼニットカプセルと呼んでいる点です。大きな看板にはボストーク宇宙船とありますが有人のヴォストーク宇宙船と呼んで良いのは番外編にまとめた6機だけでしょう。当然ながら全ての有人ボストーク宇宙船カプセルは旧ソ連内に展示され海外で展示しているところはありません。ボストーク型と呼んでいる点は後述します。この解説でのもう1つの注目点は打上げが1979年2月20日である点です。この日付が正しいなら同年2月17日に始まった中越戦争(中国とベトナムの戦争)絡みだろうと推測されます。ただしネットを探してみましたがこのゼニット打上げの裏付けは取れませんでした。


カプセルの前(?)に回り込んでみましょう。大きな窓が2つあります。ゼニット偵察衛星には焦点距離1000mm程度のクローズアップ用のカメラと、広域用の200mm程度のカメラ等の複数のカメラが搭載されていたはずです。この窓からカメラで地上を撮影していたはずです。


でここではカメラでは無く「有人カプセル」を言う為に強引に人形が押し込められています。こういう嘘はやめてくれ…素直にカメラか何かを搭載して欲しいです。だいたいボストーク宇宙船には足元にこんな大きな窓2つもありません。こちらは本物と思われるボストーク3号のカプセル写真のはずですが、窓はもっと上に小さなものが1つ見られます。と言う事でここの展示ではカプセルの中は嘘なので見る必要は無いか、嘘だと理解した上で見ましょう。


ここはパラシュートが格納されていたと思われる場所です。


側面にあるコネクタポート。機械船と接続されていたはずです。メス(機械船)側も見てみたいですね。


カメラ用の窓を横から撮影したものです。カメラ窓の部分は3つ窓等のバリエーションがあったそうです。


パラシュート用開口部のハッチ部かな?確かに大気圏突入したように焦げて見えます。


これが展示されているところにある説明文書の一部です。印刷物は出来るだけ公開しないようにするのですが、これは明らかになのでここに晒します。で最初に説明したボストーク型ゼニットカプセルが何故「ボストーク型」と呼ばれているかを説明しましょう。実はヴォストーク開発時に1K(試験衛星)、2K(偵察衛星)、3K(有人宇宙船)の3種類を開発しています。これらは基本設計は同じです。そうゼニット偵察衛星はヴォストーク2K型を発展させた物なのです。従ってゼニットカプセルをヴォストーク型の宇宙船と呼ぶのは少し苦しいですが完全な嘘にはなりません。ただしいかにも有人のヴォストーク宇宙船を騙るのはアウトでしょう。ヴォストーク2Kは後にゼニット2と呼ばれるようになります。この為にゼニット1はありません。その後ゼニット8まで開発され合計で500機以上が打ち上げられました。500機なんてもの凄い数ですね。旧ソ連全盛期の底力を見せ付けられる思いです。ここに展示してあるカプセルは打上げ時期(1979年)が正しいとするとゼニット4シリーズのどれかかゼニット6Uのはずです。おそらく万能型で打上げ数も多いゼニット6Uでは無いかと推測しています。水城さんはゼニット6Uかゼニット8だと推測しているようですね。確かにここと同じ大きな窓2つでゼニット8と言う写真もネットでは見かけたのでゼニット8かもしれません。ゼニット8だとすると1984年が最初なので打上げ時期が嘘と言う事になります。

○ モルニヤ(Molniya)通信衛星

ゼニットカプセルの奥には天井からモルニヤ通信衛星が吊り下げられています。これまたでかい…さてモルニヤと言えばまずはモルニヤ軌道を理解せねば。日米の通信衛星の多くは赤道上空36000kmの静止軌道に置かれます。しかし高緯度地帯である旧ソ連では季節によっては静止軌道の衛星は水平線近くになってしまい使い難いのです。そこで近地点500kmで遠地点40000kmで軌道周期12時間で軌道傾斜角63.4度のモルニヤ軌道の出番です。近地点が南半球になるようにすると90%の時間は北半球上に出来るそうです。また摂動を利用して常に近地点が南半球にしてあるそうです。ただし常に移動しているので同一軌道に複数機を投入する必要がありますし自転の影響もあるので複数軌道も用意する必要があり、現在も20機以上がモルニヤ軌道にあると言う事です。モルニヤ衛星は150機以上が打上げられていますが、2006年以降はメリジアン衛星に切り替えられています。ここにある機体はモルニヤ1号のバックアップだと言う事ですが…1号じゃなくてモルニヤ1って事ですよね?モルニヤ1は1960年代の衛星なのでかなり古い事になります。モルニヤ2はもう少し太陽電池が追加されているようなのでモルニヤ1で正しいのかな。


薄暗い展示室でしかも高い場所にあって特に衛星上部の様子が近くで見られないのはとても残念です。6枚の太陽電池パネルと1対のハイゲインパラボラ+地球センサが見てとれます。


ハイゲインパラボラと地球センサのアップです。


更に下から地球センサを覗き込んでみました。地球センサでは地平線等を検出して姿勢等を計算します。


打上げ時の為に太陽電池もハイゲインパラボラアンテナも全て畳める構造です。


本体下部にも各種センサ類があります。

○ ルナ24号(無人月探査船)

月探査では有人のアポロ計画があまりにも目立っていますが、旧ソ連では有人計画は失敗したものの、無人のロボット月探査では実績を上げています。それがルナ計画です。ルナ1号から24号まであります。打上げに失敗しないとカウントされない為に失敗も含めると43機の月探査ロケットを打ち上げています。1959年のルナ1号は月面から6000kmを通過し、同年ルナ2号が人類初の月面到着。同年ルナ3号は月面の裏側を初めて撮影しています。中断を挟んで1966年のルナ9号で月面軟着陸に成功し、1970年のルナ16号で土壌のサンプルリターンに成功します。更に同年ルナ17号と1973年ルナ21号でルノホート月面車を送り込みます。しかし有人計画の失敗により1976年のルナ24号を最後にルナ計画は終了します。ルナ計画により合計326gの月の土壌が入手されています。ちなみにアポロ計画では合計382kgの月の土壌と石を持ち帰っているので3桁違いではあります。しかし1970年前後にこれだけの自動機械またはロボット探査を行えた実力はやはり凄いものがあります。ここにあるのはルナ24号のバックアップと言う事で事実なら貴重な機体と言えます。なおルナ24号に関しては「スペースサイト!」「ババキンの傑作(1)」に詳しい説明がありました!これ見て予習してから見れば良かったなぁ…(^^;


それがよりによって一番暗い場所に展示されています。手前にあるアポロのレプリカよりも価値があると思うんだけどなぁ。知らない人から見ると「これなに?」なんでしょうねぇ…アポロ月着陸船と同じく上部(おそらく球が3つあるように見える部分より上)が月から離脱して地球に還る帰還船です。アポロは司令船とドッキングしますが無人のルナではこのまま地球に帰還します。


少し角度を変えた写真です。手前に3本の棒(レール)が下から上に伸びていますがこれが採取した土壌を帰還カプセルに入れる仕組みです。


反対からの写真です。一番下が着陸用のタンクでその上が着陸用ハード格納ブロックのようです。


土壌採集機構の全景です。


土壌採集機構の下部アップです。真ん中の棒がねじ切りしてあって、これで上下する仕組みのようです。


土壌採集機構の上部アップです。一番上の黒褐色の球体が帰還カプセルでしょう。


ドリルも付いています(嘘です)。ドリルのように見えるのはオムニアンテナです。


着陸用燃料タンク近辺のアップです。上下の両方に向いたスラスタも確認できます。


電気インターフェイスコネクタ部を横から。真ん中左寄りに6個のコネクタがあります。その下にあるのはセンサでしょうか。その先にもオムニアンテナが見えます。


おまけですがルナ計画ではサンプルリターンと並んで無人月面車ルノホートによる探査も行われています。ここのルナ24号の展示でも写真(左)と簡単な説明がありました。ルノホートも大変面白いのですが、2010年夏に風虎通信の宇宙の傑作機シリーズでルノホート本(右)も出ています。入手は難しいかもしれませんがルナ計画の歴史も勉強できてお奨めです。著者は「スペースサイト!」のみずもとさんです。

以上が旧ソ連に関連した展示物の解説です。どれも実機かバックアップ機体と言う事で貴重です。一応譲渡証明書もあるようですし正式にロシアから入手しているようです。説明文や一部展示内容に嘘がありますが他にこれらを見る事が出来る場所は日本には無いはずです。説明に惑わされず自分の目で旧ソ連の底力を体験しましょう。私的にはこの3機だけで満足しました。あと展示が暗かったり見難かったりする点を改善して頂けると嬉しいな。では次回米国(NASA)シリーズをお楽しみに。

----------------------------------------------
 第0回:イントロダクション
 第1回:旧ソ連シリーズ
 第2回:米国(NASA)シリーズ
 第3回:展示室内のその他展示物
 第4回:展示室外の展示物他
 第5回:エピローグ
 番外編:ヴォストークカプセルの所在
----------------------------------------------